2012年11月25日日曜日

日の浦姫物語

bunkamura で日の浦姫物語を観てきた。
井上ひさし作、蜷川幸雄演出、大竹しのぶ・藤原竜也出演という豪華な組み合わせ。
期待に胸踊らせながら初めてコクーンシアターに入った。

話の内容は、主人公が近親相姦という罪を犯してしまい、懺悔しながら生きるというもの。
まず兄と妹で、 さらに母と子で、と罪が重なり、結構な重さ。
さらに語り部も同じ罪を犯しているというご丁寧な構造だった。
正直受け止めきれていないが、こういうときこそ“作文ドリル”で感想を文章にしなければ。


■演者さんについて
演技しているところをちゃんと観るのは初めてな演者さんばかりで新鮮だった。

最初に、説教聖役の木場勝己さんがかっこよくてうっとりした。
ああいう表情を持った、声のいい役者さんが好きすぎてこまる。

人生の酸いも甘いも知っていて、いろんなものを飲み込み受け入れてきたからこその穏やかなやさしい表情。
おちゃらける時の人懐っこい表情と態度。
よく響いて人を動かす力が宿る、深くていい声。
本当に憧れます。


反対に、その妹役はどうにも好きになれなかった。
観客に嫌わせたいキャラクターではないので、自分の好みの問題だと思う。
言葉を発しないうちから、そのお辞儀のしかた、目線の投げ方が卑屈っぽくていやだった。
自分のいやなところをそのひとの中に見たのかもしれない。
堂々とした態度は大切だ。



一番楽しみにしていた藤原竜也さんの演技は、あまり良さが分からなかった・・・。

舞台での演技が関係者に絶賛されて有名になったという話を以前から聞いていたが、ドラマや映画で観た彼の演技はどこか大袈裟で、そんなに絶賛する理由が分からなかった。
これはきっと舞台用の演技のままテレビに出ているから良さが分からないのであって、舞台で観れば感動するんだろう!と思っていた。
それで今回、やっと舞台の演技が観られると楽しみにしていたのです。

実際観てみると、テレビで観たときと感想はあまり変わらず、大袈裟だ・・・と思った。
そんなに全ての台詞を力を入れて発音しなくてもいいと思うのだけど。
もう何度か観て、その良さを感じ取れるようになりたい。


反対に、大竹しのぶさんの演技は素人目にもすごさが分かった。
姫15歳の時の演技はさすがに無理があったけど、大人になってからの姫の演技は凛として美しく、色香に迷ってひとり悩むところはチャーミング。 
舞台女優さんなんだなあと思った。また観たいです。



■お話について
近親相姦というタブーについて、「日の浦姫物語」では両者が心から懺悔した結果許される。しかし、語り部の犯した同じタブーについては最後まで許されることがない。
語り部は懺悔が足りなかったのか、それとも許されるのはあくまでお話の中だけですよ、ということなのか。

私は前者だと思った。
日の浦姫たちに対する許しはうそじゃないと思う。
語り部に対しても愛があって、だからこそ本気で懺悔しないと許してあげられないんだと思う。

ただ、懺悔すればそれでいいのか?とは思った。
懺悔した結果、世の中に埋め合わせとなるような行動をしないと意味がないのではないかと思う。反省も後悔も懺悔も、全部単に心の持ちようだと思うので。



■井上ひさしさん
一度幕が閉じてもう一度上がると、井上ひさしさんの肖像画が舞台の中央に大きく掲げられていた。
そこでやっと、これは井上ひさしさんの生誕77周年フェスティバルだったことを思い出した。 その存在感にはっとしたし、もう亡くなってしまったんだなあとしみじみ思った。

今回の舞台で一番驚きとまどったのは笑いと悲劇性のバランスで、井上ひさしさんの作家性を強く感じた。こんなバランスでブラックな笑いを提供できる日本人作家はとても珍しいと思う。
日の浦が叔父さんに罪の子ができたことを告白するところで初めてそういう笑いが出てきた。役者さんが大真面目にばかばかしく重いことを言っていて、可笑しいんだけどいいのこれ、という気持ちになった。
笑えるけど居心地がわるい 。
いわゆる欧米のブラックユーモアとも違うと思うけれど、哀しいかな比較できるほど欧米のそれに詳しくありません。。
とにかく、特殊なバランスを持ったひとだったように思った。


すごく残念だけど、このお芝居で彼が伝えたかったことを私はあまり理解できなかったように感じている。
私の倫理観は井上ひさしさんの感覚とはかなりずれてしまっている。
それは小説を読んでいても感じる。
彼の考えにはきちんとした美意識や倫理がある。私はそれに憧れるけれど、しっかり共感できることは少ない。
“古きよき日本の考え方”として遠くに感じられ、こんな風に考えられたらいいなと憧れるだけだ。


もっと数を読めばもう少し近くに感じられるかもしれない。
実家に何冊もあったはずだから、今度帰省したときに読んでみよう。

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